祇園にて20年近くバーで勤めてきた相根章宏さん。2022年3月、同じ祇園エリアの中で店舗を移転、「祇園 さが乃」をリニューアルオープンしました。新しい店舗では長年の経験を生かし、徹底した居心地の良さを追求。お店の空間づくりには、一体どんな思いが込められているのでしょうか。こだわりの内装についてお話を聞いていきます。
カウンターの高さや奥行き、照明も
すべてはお客様に心地よく過ごしてもらうため。
——前回、カウンター席の板は、お客様との距離感を考えて、奥行きのある木材を自分で探してきたことを聞かせてもらいました。距離感と同時に、目線の高さも重要という話でしたが?
相根さん:
ええ。私の身長は172センチあるのですが、お客様がカウンター席の椅子に座った状態でちょうど目線が合うように高さを決めました。目線の高さはすごく繊細で、居心地の良さにも関わってきます。スタッフとカウンターで向かい合いながら、目線がどの位置に来るのか、天井の高さはどうのなるのかなど現場で何度も確認をしてから決めていきました。
カウンター席の椅子も板と同様に自分で選んだのですが、これも座面の高さをきっちり出してから購入しました。前のお店の椅子には肘置きがなかったので、今回はどうしても肘置きがあるものにしたかったんです。やっぱり肘置きがあると寛いで過ごすときにも楽ですよね。あとは座面も広いものを選びました。カウンター下の奥行も、男性が座って足を組めるように広めにしてあります。
——なるほど。カウンター下の空間に余裕があると、足の組み替えもしやすいですね。
相根さん:
そうなんです。今回の店舗では、カウンター下にも照明を入れてもらったので、お客様の忘れ物もずいぶんと減ったんですよ。以前の店舗ではカウンター下に照明がなくて真っ暗だったため、荷物の置き忘れもよくあって。お店を出たお客様を走って追い掛けるなんてこともあったんですが(笑)照明があると荷物を置いていることも気が付きやすいので、忘れ物はほとんどなくなりました。
またバーの店内は、照明が暗めで見えにくい場合もありますが、足元が照らされていると、歩くときも安心です。
——照明は雰囲気を良くするだけではなく、重要な役割があるんですね。カウンター下の照明は、すごくいいアイデアだと思いました。
相根さん:
長くバーをしてきたので、今回のリニューアルでは「こうだったらいいのにな」と思っていたことをすべて詰め込んでいます。入口からカウンター席に来るまでにも段差があるのですが、そこにも照明を付けてもらいました。
——たしかに通常営業のとき、店内はほの暗いので、段差があっても気付きにくいですよね。
相根さん:そうですね。店内の照明の色も、前のお店ではハロゲンランプだったのが、今回はLEDになっています。LEDだと明るくなりすぎることもあるので、明るさのバランスは意識しました。あとLEDだと電気代がすごく安くなっていてびっくりしましたね。
——カウンターの正面にあるお酒が並んだ棚も、とても美しくライトアップされていますね。
相根さん:
ありがとうございます。棚の背面は、木の表面を削って作る「なぐり加工」のパネルを提案してもらったのですが、これもとても気に入っています。木の質感もあって、前の店舗の和の雰囲気を引き継げたのではないかと思っています。
元々は今、カウンターになっている場所が厨房だったのですが、元あった厨房は狭くして、カウンターバーにしたんです。カウンターの端には、スタッフが出入りできるような出入り口も作ろうかと考えたのですが、あえて長さを見せたいと思い、作りませんでした。おかげで圧迫感がない、奥行きを感じられる空間になったんじゃないかと思います。
——本当に計算され尽くした空間なんですね。一方ソファ席は、和風のカウンター席とはまた違う、洋風な雰囲気ですね。
相根さん:
はい。こちらの空間は、改装前のモルタル壁や石目のタイル床を生かして、洋風の印象にしてもらいました。床の張り替えをするとけっこう予算がかかるそうなのですが、そのまま活用できたおかげで費用も抑えられました。
この横に長い窓もそのままですが、上から半透明の和柄のシートを貼ってもらっています。窓の向こうは廊下で外から見ると、中に人がいる気配は分かるけれど、顔などははっきりしない程度の透け具合でちょうどよかったです。でも逆に、中にいる人は外を歩く人の雰囲気が分かるので、先にお店に来ていたお客様が、あとから遅れて入ってくるお客様が分かったりして、ホントちょうどいいんです。
実は、カウンター席の天板は、長すぎて入口のドアから奥まで入れることができなかったので、ここの横に長い窓から木材をいれて事無きを得ました(笑)
——カウンターの板は、けっこうな長さがありますもんね。入って良かったです!(笑)入口のスロープも雰囲気があっていいですね。
相根さん:
実はここも工事は一切していなくて、前のままなんです。新しいお店はビルの1階だけど、けっこう奥まっているのが分かりづらいかなとも思ったのですが、お客様からは隠れ家的でいいとか、風情があると好評です。移転したことで、店の前にタクシーが止まれるようになったことも喜んでもらっています。前は道が狭くて止められなかったので。活かせるところは活かして、工事中もいろいろと相談しながら進められたのは有り難かったです。リニューアルオープンが、前からのお客様にも喜んでもらえて、それが本当にうれしいですね。
——新たな店舗も常連のお客様には前以上に好評とのこと。お客様の快適さを常に考えていらっしゃるからこそ、長くお客様も通われるのだと思いました。
相根さん、貴重なお話をありがとうございました!
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