「ハイアットリージェンシー京都」や「フォーシーズンズホテル京都」といったハイクラスなホテルが建ち並ぶ東山五条〜七条エリア。このどちらのホテルからも徒歩圏内という場所に、2018年9月にオープンしたお店が「東山 吉寿」です。
店主は、京都府亀岡市・湯の花温泉にある旅館・和のオーベルジュ「翠泉」にて、オープン当初から料理長を務めていた鈴木吉寿さん。
鈴木さんは「お客様にいかに楽しんでもらうか」を徹底して追求。お店の隅々にまでその思いが体現されていました。鈴木さんだからこそ、完成したこの空間。「こだわり尽くし」のお店作りは、いったいどんな風に進んでいったのでしょうか。
前編・後編の2回に分けてご紹介します!
——————
和食店らしさはいらない
リッツカールトンのバーをイメージした空間づくり
——この建物は元々民家として使われていたそうですね。リフォームする際には、どんなイメージを持っていたのでしょうか。
鈴木さん:
お店のテーマは、リッツカールトンのバーです。和風でありながら、バーカウンターのような空間にしたいと考えていました。和食店でよく見るのが白木造りの店内だと思うのですが、そうすると、ぴりっとした緊張感のある空間になってしまうんてす。それがいいというお客様もいると思いますが、私はお店に来てくださったお客様には、寛いで料理を楽しんでもらいたいと思ったんです。
まずはカウンターの後ろの空間が狭かったので、圧迫感のないように、壁を取っ払ってもらいました。突き当たりにトイレがあるのですが、お客様がトイレに行くときに、他のお客様に気を使って、「後ろスイマセン」と言いながら、通ってもらうのは嫌だなと思ったんです。
壁を取ったところには、これも和食店らしくないかもしれませんが、ガラスのショーケースを置いています。
——お店の中で一番こだわったのはどの部分でしょうか?
鈴木さん:
店内のどの部分にもこだわりがあるのですが、お手洗いは一番大事なので、ここには特にこだわりました。建物が古い町家ということもあり、暑さ寒さを感じることがないよう、トイレにも専用のエアコンをつけています。また洗面所は自動で、冷たい水ではなく温水が出るようにしてもらいました。手を拭くのも、紙で拭いてゴミ箱に捨てるというのではなく、おしぼりを置いているんです。
うちのお店のディナーは18,000円、ランチ7,000円と安くはない単価設定になっています。そのためVIPのお客様も多く、お手洗いでは大切な指輪を外して手が洗えるように、洗面台にはジュエリーケースも用意してあります。
あとトイレのドアは最初につけてもらったものが納得が行かず、取り換えてもらったんですよ(笑)
——え、そうなんですか!ドアの何に納得が行かなかったのでしょうか?
鈴木さん:
ノックするときの音です。最初につけてもらったドアは、ノックしてみるとベニヤ板のような軽いコンコンという音がして、それがどうしても嫌だったんです。現在のドアの材質だとノックしたときに変に音が響かないんです。この扉はルイヴィトンのお店の2階に上がったところ、エスカレーター横のある壁をイメージしてもらいました。ドアの取っ手も元あったものから、流木に付け替えてもらっています。
トイレ内の香りもお店のテーマに合わせて、リッツカールトンのロビーの香りと同じにしているんですよ。
——自分の作りたい空間が本当に細かく頭の中に出来上がっているんですね。香りまで徹底して演出されているとは! トイレのドアの音が気に入らないというのは初めて聞きました(笑)
鈴木さん:
お客様には、本当に料理を純粋に楽しんでもらいたいという思いがあるので、すべてはそのための空間造りだと思っています。トイレには活けたお花を置く台があるんですが、この花をきれいに見せるためだけの間接照明もつけてもらっています。
——なるほど。このトイレの扉から空間から、すべては料理をおいしく気持ちよく楽しんでいただくためのこだわりなんですね。トイレだけでこんなにこだわりがあったとは…!
後半では、その他のリフォームについて伺っていきます。